「ボクが女の子だったら、子供が生めるのに、って・・」
プラムの目線は地面に注がれている。太古から存在し続ける大地に注がれている。
もしも自分の遺伝子が少し変わっていたら、自分は最後のひとりではなく・・新しい命を生み出せるひとりであったかもしれないのに。
そう伝えているようにも見えた。この、世界に。

「・・ますます、訳が分からん」
「え?」
「女だから子孫が残せる、ってのは俺にはよく分かんねえなあ」
ロードは、感じたことを素直に口に出した。古代の一族の最後のひとりは、きょとんと隣の少女を見ている。
「だってよ、お前が合成してる・・動物の世界なんかでもそうじゃん?子供ってのは、基本的には男が女に生ませるもんなんだよ」
「そう・・そうなのですか?」
「ライオンなんかそーじゃん。1つの群れにさ。雌はいっぱいいるけど、雄は1匹だけなんだぜ。何匹もの雌に、1匹の雄が子供生ませるんだよ」
「そーなのですかっ!知らなかったです!ロードさんは物知りなのです〜!」
プラムは茶色い瞳をきらきらと輝かせて、聞き入っている。
「まあ・・雄は雄同士で戦ったり大変らしいけど。お前は1匹しかいねーんだ、この際贅沢は言ってられねえだろ」
「はい!贅沢言わんですよ!」
「お前・・俺の話の意味、分かってる?」
再び頭が痛くなるのを覚えながら、あえてロードは尋ねた。

「分かってますです!ですから、つまり・・」
プラムは、腕をまっすぐに伸ばして、きちんと膝の上に置く。

「ボクがこのままボクでいても、もしかしたら、子孫を残せるかもしれないということなのです!」
どこか公式の場ででもあるように、プラムはまっすぐに視線をロードに向けて、そして宣言するように言った。

「・・ま、そーゆーこった」
はしゃぐプラムにロードは半ば呆れているが、当の本人は何処吹く風。
楽しみです!と何度も繰り返している。
「でもそれならボク、早くがつっとどわっとならないと駄目ですね〜」
まだ見えぬ遠い未来に思いを馳せて、プラムはなおもはしゃいでいる。
だが、ロードにはもちろん、そんなプラムは想像できない。それに相手は、これがゼロに近い可能性の話である、と言う大前提を忘れているように見えた。
「なあなあ、確認しとくけど、ほんっとーにお前、がつっとどわっとなれんの?」
「なれますですよ!もちろんです!アプラサスは肉体的にも魔人の一歩前を行く種族なのですよ!」
息を荒げて力説するプラム。

「それとさ、もうひとつ。ガキってのはひとりじゃ作れねえんだぜ?分かってんのかよ、お前」
知らず、溜め息が漏れた。
「はい〜、知ってますよ、それくらい。だってボクにもお父さんとお母さんがいたのです。男の人と女の人と、両方揃わないと赤ちゃんは生まれないのです〜」
屈託ない笑顔で語るプラムに、どこまで分かっているのかと、ロードは甚だ疑問に思ったが、それを口には出さなかった。これ以上話を広げて、この子供につきあうのも骨だった。
ふと静寂が訪れた。
見ると、プラムがきょとんとこちらを見ていた。
「なんだよ?」
ふふ、と桃色の髪を揺らしてプラムは微笑むと、
「その時、きちんと確かめてくださいですよ、ロードさんっ」
ふかふかの手で頬を挟んで言った。
「はぁ!?」
プラムの言葉の意図を図りかねて、思わず大声が出た。

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